2008年7月22日 (火)

A Special Trade

 先日は僕の誕生日。

 特別なことは何もしなかったけれど、その日は、ある考えが頭に浮かんだ。

 「明日、僕のお気に入りの居酒屋で、ブルース先生と食事に行こう!」

 誕生日の次の日、僕はブルース先生とレッスンはそっちのけでいつものようにいろんな話をした。僕は主に学校のことや生徒のこと。ブルース先生は自分の健康のこと。彼は足が悪くて、時々たんの絡まった咳をする。

 日ごろから彼の体調を気にかけていた僕は、沢山の質問をしていた。だって、心配なんだもん。ご飯は何を作って食べているの?とか、足は大丈夫なのかい?とか、病院行ってよ!とか。とにかく、いろんなことを矢継ぎ早に質問していた。

 それで分かったことがある。

 ブルース先生は病気を抱えているってことを。

 残念だけど。

 悔しいけれど。

 泣きたくなったけれど。

 でも、彼はいつものように心静かに落ち着いて語っている。

 それはまるで恐怖を乗りこえた戦士みたいに。 

 悟りを開いた僧侶のように。

 心乱すことなく、静かに語るんだ。

 自らの病気のことをね。

 彼は45歳の時から遺伝で筋肉が死んでいく病気にかかっているんだって。

 筋ジストロフィーなのかと聞くと、違うと答えてくれたのでほっとした。

 もっと進行が遅い筋ジストロフィーのようなもの、と教えてくれた。

 僕はとても悲しくなった。

 ブルース先生はもうすでに失われた右手の筋肉を見せてくれた。ペンの持ち方がおかしかったのもそのせいかと妙に納得した。それから足首が上下に動かないので歩くのが困難で、両足にブレースを入れているのも見せてくれた。やっぱり僕は泣きたくなった。

 僕は泣くのを我慢して、今日給料日だからと、ブルース先生を食事に誘った。

 彼は快くOKしてくれ、忙しいにも関わらず僕との時間を取ってくれた。

 日本料理にお互い舌鼓を打ち、僕らは互いの過去やこれからのことを語りあった。

 どうしてこんなに気が合うんだろうな・・

 本当のおじいちゃんみたいだ・・

 この人を大切にしようと思った。

 そしていつかお返しをしようと決めた。

 12月にはアメリカに帰ってしまう、ブルース先生。

 僕はその後を追うつもりだ。

 アメリカに行けるといいと思っている。

 君は、応援してくれるかい?

 とっときのとっかえっこ

 このお話はとても素敵なお話です。

 だから何も聞かず読んでみてください。

 今僕は考えています。

 僕がブルース先生にできる最大なことは何なのかと。

 この本みたいになにか特別なTRADEができたらいいなあと思います。

 それでは。

 君にも愛を!

 

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2008年7月 3日 (木)

クレリア

 やあ、久しぶり!

 君は元気だったかい?

 僕は元気だよ。

 今はテスト期間なんだ。

 採点は明日までに終わらせて、土曜はスポーツ大会。

 すっごく楽しみにしている。

 僕の担当は特進クラスだから、イベントがとても少ない。

 僕としては沢山の体験をみんなに与えたいんだけれどね。

 さまざまな経験をして、いろんなことを想い、悩んだり感動したり或いは泣いたり悲しんだり悔しい思いをして、どうか成長してもらいたい。心豊かに成長してもらいたい。勿論望むどうりの大学に入ることも大事だ。でもね、人としての生き方も学んでもらいたい。そう思っている。特進クラスは本当にイベントが少なくて君達の成長を奪っているみたいで申し訳ない。でも、テストが終わったらスポーツ大会がある。そこで息抜きでもしよっか。だって、人生は勉強だけじゃないからね。

 食堂に飾ってある七夕の笹に、僕のことを書いてくれた君!

 内容はともかく、ありがとう!

 教頭先生に言われたよ。

 あれは願い事ではないってね。

 ははは!

 僕は少しでも君達の役に立っているのだろうか?

 そうだといい。

 そうだといい。

 君達の先生として、カウンセラーとして、ヒーラーとして、セラピストとして、僕は君達の役に立っているといい。

 土曜は思いっきりたのしもう!

 この日ぐらいは勉強のことを忘れようぜ!

クレリア―えだのうえでおきたできごと Book クレリア―えだのうえでおきたできごと

著者:マイケル グレイニエツ
販売元:セーラー出版
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 僕は君達にとってクレリアみたいになろうと思う。

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2008年6月14日 (土)

More Tales Of Oliver Pig

 

 君達を見ているといろんなことを思い出す。

 僕がいろんなことを知りたいと思うようになったのは高校生の頃で、本を読みまくっていたこと。

 自分が知らなかったことが分かるのが楽しかったこと。

 知識がひとつ増えるごとに自分の中の世界が広がってゆく、その感覚が喜びに満ちたものだったこと。

 君達に相談され、泣かれるたびに、自分のこれまでの生き方をああだった、こうだったって思い出しながら伝えるとき。僕は自分の過ぎてしまった人生の半分を再び体験する。

 君達の悩みを君達に代わって解決してあげることは出来ないから、僕は僕であることで、今までの僕の生き方のヒントを与えているよ。

 僕が落ち込んでいるときには君達は誰かが決まって僕を励ましてくれる。明るい「せんせえ、こんにちわあ~」という挨拶だったり、僕に向けた無邪気な笑顔だったり、いつもはやらない子が宿題を出してくれたときだったり。そんな時思うんだ。僕が君達のように高校生だったときに、こんなふうに人を癒したことなんてあったのかなあって。多分なかったよ。

 静まりかえった教室の中、問題を解く君達のシャープペンの紙をこする音しか聞こえないとき、僕は君達と同じ年のころ、こんなふうに君達ほどは勉強していなかったって思い出す。みんなは偉いなあとシャープペンの音を聞きながら思う。

 教室の中で君達と一緒にいると、いろんなことが思い起こされるんだ。

 一緒にいると時々君達の事をずっと昔から知っているような気がするし、この教室もずっと使ってきたような錯覚に陥るんだ。不思議だね。

 そして君達を見ていると、自分がなりたい教師像が浮かんでくる。

 僕は、

 僕は、

 僕は、

 勉強を教えるだけではなく、心のケアもするセラピストを兼ねたスペシャリストになりたい!

 そして自分の生き方のようなものを見せて、僕自身からも学んでもらいたい!

 そう思うんだ。

 君達を見ていると、そう思うんだ。

More Tales of Oliver Pig (Puffin Easy-to-Read, Level 2) Book More Tales of Oliver Pig (Puffin Easy-to-Read, Level 2)

著者:Jean Van Leeuwen
販売元:Puffin
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こぶたのオリバー君とお父さんは雪の降る日に散歩に出かけました。オリバー君は、お父さんにたくさんのことを聞きます。「空に雪のひらひらってどのくらいあるの?」

 「雪がふって、あたりが真っ白になったとき、畑はどこへ行ったの?」

 「雪が降ってきたら、鳥達はどこへ行ってしまうの?」

 そんなふうに、オリバー君は沢山知りたがります。

 お父さんが質問します。「どうしてそんなにいろいろききたがるんだい」

 「それはぼくが、沢山のことを知りたいからだと思う」オリバー君は言います。

 「きみは、いつか、きっと、いろいろなことをしるようになる」

 お父さんはそういって、オリバー君を抱きしめます。

 

 君達を見ていると、ほのぼのとしていて愛情深いこの本の、この台詞を思い出します。そして言いたくなるんだ。

 「君は、いつか きっと いろいろなことを 知るようになる」だから、今この瞬間があるんだよって。

 

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2008年5月15日 (木)

How the witch got alf

 

 ちゃっぷん、ちゃっぷん。

 時々自分の中から音がするときがある。

 歩くたびに自分の中心が揺らぎだす。

 自分の中に氾濫するこの水は、僕を時折おぼれさせようとする。

 最初は足元まで溜まっていただけだったのに、気がつくと首のあたりまでに達している。

 そんなふうにして、僕は自分の中の涙におぼれそうになる。

 子供の頃から僕はそんな自分に付き合ってきた。

 僕の目に映る全ての物は、はかなくて美しくどれも悲しげだった。何を見てもその人や物、或いはそこにある悲しみのかたまりのようなものをすばやく見つけ出した。そして、僕の中で涙は充満するのだ。

 若い時分、そんな僕の周りの人たちは、いつも僕の扱いには困っていたみたいだ。きっと僕は自分の周りに固くて強くて簡単には越えられない壁を作っていたんだろう。

 しかし、今は年を重ねたせいか、涙の水位は下がり気味だ。そのお陰か、人並みに人付き合いもなんとかこなしている。ぎこちなさや固さはまだまだ取れないけれどもね。以前ほどではないにせよ、きっとまだ壁は健在なんだろう。

 そうして気がつくと首のあたりまで水かさが増しているときもある。そんなときはひたすら、ぼおっとして、疲れを取り、栓を引っこ抜いて、水を抜いてゆく。何もせずに、自分に帰る。背を丸めて毛布をかぶって。そうやって辛いと思ったときこそ、自分の中にもぐりこむんだ。

 全ての水が亡くなった頃、僕は再度確認する。自分は自分でいいということを。背伸びしなくても自分が自分でいることがとても楽しいということを。

 こんなふうに書いていると、ますます思うんだ!

 ああ、自分でいれるって、なんて楽しいんだろう!って。

 そんなふうに思って生きていたら、周りも自分のことを自然に理解してくれるような気がする。

 以前のように周りが扱いに困ることもないんじゃないか、とさえ思う。

 生きているといろんなことが起っていろんな気持ちになるけれど、自分らしくいれるって、なんて素敵なんだろう。

 今更だけど、気がついた。

 ありがとう、みんな。

アルフはひとりぼっち (子どもの文学・緑の原っぱシリーズ (2)) Book アルフはひとりぼっち (子どもの文学・緑の原っぱシリーズ (2))

著者:コーラ・アネット,スティーブン・ケロッグ,掛川 恭子
販売元:童話館出版
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時々僕はこのロバのアルフと同じような気持ちになって、とんちんかんなことをしたりする。でも最後には気がつくんだ。自分もみんなのように愛される存在だって、ね。

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2008年4月26日 (土)

It could always be worse

 ひどく忙しい僕の最近の楽しみは、English Bibleの時間。

 それは土曜日に行われる。

 たいていは学校帰りにレッスンを受けるんだ。

 先生は75歳の宣教師、ブルース先生。

 本当は英会話のレッスンのクラスだったのだが、ブルース先生はバイブルを教えたがっているみたいだった。断る理由もないし、それがこの人が僕に与えてくれる最良のものだと思ったから、じゃあそうしましょうと言って、このクラスは始まった。

 僕たちは年が離れているのにも関わらず何故か気が合って言いたいことを正直に言い合える。僕が沈黙すると、何を考えているんだい、と優しく聞いてきてくれる。そんな時の僕はたいていは何かを考えていて、言葉を探して沈黙していることが多い。今日の晩御飯は何を食べるんだいとの問いに、something easy と答えると、先生は大笑いして僕に握手を求めてくる。自分も近くのスーパーでそうするつもりだと言ってね。

 学校が始まる前も緊張して不安がる僕に聖書からの一節をいくつか読んでくれて、全ては大丈夫だと安心させてくれた。

 学校が始まって忙しすぎると言うと、But you still alive! と言って笑わせてくれた。

 必要なときに僕を勇気づけ、さりげない助言を与えてくれるブルース先生。

 今日はこれからレッスンがある。

 次は生徒のことを話して聞かせてよと先週ブルース先生は言っていた。

 何を話そうか。

 宿題をしない2、3年のこと、何でも聞いてくる1年生のこと、よく質問にくる3年生の生徒達のこと、来週行われる遠足のこと、話したいことは沢山あった。

 それを話す僕の楽しそうな様子を、我がことのように面白がってくれるブルース先生のことが目に浮かぶ。

 彼は僕にとってのおじいちゃんでもあり、師でもあり、ヒーラーでもあり。

 これから会いに行くのが楽しみだ。

 わくわくしてきたぞ。

 こういう人が君の周りにひとりでもいるといいよね。

It Could Always Be Worse: A Yiddish Folk Tale Book It Could Always Be Worse: A Yiddish Folk Tale

著者:Margot Zemach
販売元:Farrar Straus & Giroux (J)
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この本に出てくる当たり前のことを面白い方法で気づかせてくれるラビは、まるでブルース先生みたい。絵本に出てくる人と自分がともすれば滑稽で、なんだか笑ってしまう。日本語版の題名は『ありがたいこってす!』この題名もこの本に合っている。面白い本です。

 

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2008年4月20日 (日)

PEOPLE

お風呂上りに僕は決まってベランダに出て、空を眺める。

 最初は温まった体の火照りを冷ますために外の空気を吸っていたのだが、それが今では習慣となり、空を見上げて月や星やゆっくりと流れてゆく雲を見つめては物思いに耽る。雲の向こう側にある宇宙を思い浮かべたりする。

 これは、どんなに忙しくても、欠かせない儀式のようなもの。

 学校が始まって二週間が経った。

 仕事量は半端ではないが、今は逆にそれを楽しんでいる。

 余裕はないのだが。

 生徒達はやはり可愛くて。

 彼らがいるから、どんなに大量の仕事が待っていても、こんなふうに楽しく感じられるんだ。

 今の学校に来る前、自分に務まるのか正直言って、怖かった。

 僕がその時信じたものは、不安の先にあるものだった。

 また、自立支援のほうが僕に向いているのではないかと思う迷いもあったしね。

 結局僕は高校を選んだ訳なのだが、それを決めたのにはある想いがあった。

 それは、校長先生に対するもの。

 校長先生は、退職されて、これまでしてきたように剣道を通して人を育てていた。折り目正しく、体の軸がまっすぐでピンと伸びている方だった。道場も自ら作り、師範でもあるので、生徒に教えてもいた。聞くと、自宅では畑を作り第二の人生を歩もうとしていたときに、ここの学校の校長に抜擢された。

 面接でいろんな話をしているときに、「ああどんなに大変でもこの人の下で働くなら、なんとかなるかなあ」という想いがあった。

 まさに直感と言うべきか。

 今思えば、そんなふうに思えなければ、僕は今別の道を歩いていたはずだ。

 「僕の選択は正しかったんだ」、とベランダで風にあたりながら実感する。

 雲の流れを目で追うと、雲は月の前を通りかかり、月を隠し、そしてその覆いをはいでいった。

 見え隠れする月を眺めながら、この空の向こう側にある宇宙に想いを馳せる。

 見たこともない宇宙に。

 けれど、その雲のずうっと向こう側には確かに宇宙が広がっている。

 ちょうど光の前に暗闇が広がっているように。

 

 僕は何を見ても何かを思い出し、いつも誰かに何かに想いを寄せている。

 僕は想いで全てを繋げているみたいだ。

 そんなふうに思う。

 僕の想いがみんなに届くといいなあと思う。

 これまで出会い関わった全ての人に。

 今出会えたみんなにも。

 思いっきりの愛を込めて。

People Book People

著者:Peter Spier
販売元:Doubleday
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僕達は宇宙の中で繋がっている。顔もおしゃれも言葉も習慣もちがうけれどね。

 僕はピーター・スピアーの大ファン。

 最初と最後の見開きには宇宙の絵が描かれてある。

Book せかいのひとびと (児童図書館・えほんの部屋)

著者:ピーター・スピアー,松川 真弓
販売元:評論社
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2008年3月29日 (土)

Katy and the Big Snow

 人生、何があるか分からない。

 いつからか僕はそう実感するようになった。

 その感覚は今も明日もあさっても、生きている限りは恐らくずっと、僕の中に存在し、息づいているんだろうな、と思う。

 面接を終えた帰り道、携帯が鳴った。

 僕の番号を知っている人は全くというほどいないため、鳴った瞬間、ドキリとし、何かがやってきたのが分かった。

 それは僕の予想を超えていたものだったが、僕の元に何かが飛び込んできたことには変わらなかった。

 とある私立高校から採用したいとの申し出で、できればすぐにでも面接に来てもらいたいとのことだった。面接を受けたばかりだった僕は、今さっき面接を終えてうまくいき、指導員になる予定だと答え、どうして僕のところに電話をくれたのか、他に候補者はいないのか、などと否定的なことばかり並べ立てていた。

 もともと僕はひとつのことを集中して行うタイプであり、二つ同時に重要な何かを考えたり実行するのには慣れていなかった。だから、指導員になるにあたって、仕事の合間に図書館からおびただしい量の特殊教育や自立支援の本を借りてきては次々と読破し、理解を深め、指導員になるためだけに、この3週間を過ごしてきた。

 そんな中、急に高校から電話があって、しかも特進クラス担当だなんて言われても、何をこの人は言っているんだ、僕は自立支援をするんだよ、って思った。

 とにかく一度面接に来てください、すぐにでも、というので、僕は混乱した頭を抱えて来た道を引き返し、駅へと向かうこととなった。

 学校に着き、校長先生と理事長の面接を受けることになった。

 高校で英語を教えるのは初めての経験で、しかも特進クラス、僕は正直に自信がありませんと答えた。もし受けるとしたら、すごく努力してチャレンジしなければいけない。でも指導員になるとしたら、僕の得意分野なので自分に合っているはずだ、と述べた。

 それから、いろんな質問があり、自分の性格やこれまでの仕事のこと、また、給与のことなど話は及び2時間ほどで面接は終わり、僕はその高校を後にした。

 結局その日は、午前と午後に面接を1回づつ受けたことになる。

 さらに夕方、友人の勤務する小学校に特殊教育について聞きに行くことになっていて、そこで1時間以上話を聞き、自宅に帰ったときにはくたびれた雑巾のようになって床に転がっていた。

 午後6時を回ると再び僕の携帯が鳴った。

 先ほど面接を受けた校長先生からで、採用するので働いてもらいたいとのことだった。

 僕は腹を決めた。

 チャレンジする自分に賭けよう。

 分かりましたと答え、今後の予定を聞いた。

 電話を切った後で愕然とした。

 僕は今自分の能力以上のことをやろうとしている。

 その実感は恐怖となって僕に襲い掛かかってきた。

 暫くその恐怖に身を任せた。

 そして、その時に思い出した。

 闇があるから光が輝くことを。

 不安の先にはどきどきするような面白い世界が広がっていることを。

 ジェットコースターに乗る前に恐怖に身を固くするけれど、いざ動き始めると、スリルがあって興奮し、楽しくなっていることを。

 僕は恐怖の先にあるものを考えた。

 大丈夫。

 僕はきっと大丈夫。

 うん、人生は上場だ。

Katy and the Big Snow Book Katy and the Big Snow

著者:Virginia Lee Burton
販売元:Houghton Mifflin (Jp)
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 KATY は働き者の除雪車。ある時町がすっぽり雪に埋もれてしまいます。KATYは雪を掻き退け、途中で疲れることはあっても、自分の仕事を全部済ませて、やれやれと家へ帰ります。

 自分が役に立つという喜び。

 自分が必要とされる喜び。

 感謝とともに、自分も今このKATYのように、人の役に立ちたいと切に思うのです。

はたらきもののじょせつしゃけいてぃー Book はたらきもののじょせつしゃけいてぃー

著者:ばーじにあ・りー・ばーとん,いしい ももこ
販売元:福音館書店
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日本語版はこちら。

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2008年3月27日 (木)

わたしたちのトビアス

 

 高校教師の登録を済ませたものの、空きがあるまで、およびはなし!

 って、あたりまえだけれど。

 僕の友人達は3月になると決まってどこにも出かけずに電話の前にしがみつくんだそうだ。お呼びが掛かったときに不在なら、その人をすっとばして次の人に電話してそのまま採用するらしい。

僕はそんなのはごめん!

 なので僕なりに前に進むことにした。

 電話の前にじっとしているなんて僕にはできない相談だ。

 わっはっはっ。

 というわけで、小・中の普通学級にいる発達障害の子供達の指導員という募集を見つけた。教員免許を持ち、発達障害について深い理解があり、子供と関わった経験があればいいようだ。この仕事は、市の職員という位置づけで、採用後は市内のどこかの学校に派遣される。

 教育委員会の担当者に直接履歴書と作文を持っていく。

 直接持っていくことで、一次面接も兼ねているようで、履歴書を確かめながら、僕がこれまでしてきた仕事について簡単に質問があった。

 

 これまで僕は、さまざまな子と接してきた。

 本当にいろんな子がいて、手を焼いたことも正直あったが、大体は良い方向に向けていけたと自負している。

 だから今回僕には自信があった。

 履歴書を置いて帰ろうとする道すがら、絶対に受かった、と確信した。

 前回のように面接で失敗することはもうないと思った。

 

 それから一週間経ち、一次が通り、二次面接まで進むことができた。

 面接の当日。

 面接官は5人。

 一人ひとりから、自立支援や特殊教育の難しい質問が出された。

 しかし、面接官は、みんなそれぞれ、びっくりするほど優しく、とてつもなくいい人であるオーラが漂っていた。僕が質問に答えるたびに、「簡潔でよくわかりましたよ」とか、「小学校3年生の子が授業中うろうろして止まないとき、貴方はどうしますか?」との問いに、自分なりの精一杯の対処を言ってみたものの、自信がなく、はっきりと言い切れなくて、「・・・と思うのですが・・、とても難しい・・・と思います」と正直に言うと、「本当にそうですよねえ」と面接官。面接で心が通ったことなんて今までなかったよ。

 僕は緊張することもなく、自分を必要以上に大きく見せることもなく、素直に、謙虚に出された質問に答えることができた。

 自宅に帰る道すがら、何故面接官がみなあれほどいい人ばかりなのだろうと思った。

 たった一言言葉を交わして、いい人だと一瞬にしてこちらに伝わってくるのは何故なのだろう、と。

 しかし、すぐに思いついた。

 そっか、そうだよね。

 よっぽどいい人で、何があっても理解ができる幅の広い人でなければ、特殊教育に携われないよね・・、そう思った。

 そうだよね。

 心がほかほかするのを感じながら、この人たちの下で働きたい!と強く思った。

 僕は受かっているはず。

 絶対に。

わたしたちのトビアス Book わたしたちのトビアス

著者:ヨルゲン・スベドベリ
販売元:偕成社
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 これは、兄弟のお話です。5番目に生まれたトビアスはダウン症で、両親は泣き、施設に入れることを考えます。でも、四人は怒り、主張します。普通じゃない弟がいてよかった。ふつうではないってどんなことかトビアスのお陰で分かるから。どんな人だって一緒に暮らすほうがいいし、お互い怖がらない方がいいに決まっている。とにもかくにもトビアスは可愛い!のだそうです。

 こんな兄弟がいるなんて、素敵です。

わたしたちのトビアス大きくなる Book わたしたちのトビアス大きくなる

著者:ヨルゲン・スベドベリ
販売元:偕成社
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わたしたちのトビアス学校へいく (小学1年から読みきかせたい本) Book わたしたちのトビアス学校へいく (小学1年から読みきかせたい本)

著者:ボー スベドベリ,ラグンヒルド ロベレ,トビアスの兄姉たち
販売元:偕成社
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 このようにトビアスは大きくなってゆく。

 わたしたちのトビアスの、「私達」は、トビアスの兄弟姉妹のことなんだよね。

 なんだか、あったかい。

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2008年3月 4日 (火)

John Patrick Norman Mchennessy

 

 面接のときの話をしよう。

 僕は公立高校の面接を受けた。

 大勢の人が面接にやってきて、二日に分けて面接が行われた。

 面接官の前に座り、六人の集団面接。

 教育の集団討議に始まり、個人質問、英語による口頭テスト、などなど。

 面接官によると皆は現在学校で教鞭をとっているのだとか。

 もしも自分に高校生の娘か息子がいたとして、こんな先生達に我が子を任せたくないなあと正直思ってしまった。うん、やっぱり。しかし、彼らは実際に今も中学、或いは高校で生徒達に関わっていて、きちんと仕事をこなしている。

 はたと気づいたのは、そういうふうに考える自分こそがこの中で最もこの場にふさわしくない者であるという事実だ。きっと、彼らは学校にふさわしいんだろうな、と面接中に感じていた。自分はそうじゃない。

 そう思うと自分が恥ずかしくなってくる。

 いてはいけない所にいるみたいに。

 自信もなくなってくる。

 そうして面接もしどろもどろに。

 笑っちゃうね。

 自分に。

 面接を終えて歩きながら、自分が本当にむいていることは何だろう、と考える。

 何もないのではととっさに思う。

 そう思うと自分が情けなくなってくる。

 見上げると、薄いブルーの空に眩しい太陽がうろこ雲を照らしていた。

 羊のような真っ白な色をしたうろこ雲達の群れが彼方まで続いていた。

 海からの風がこの街を吹きぬけてゆく。僕の身体にも触れてゆく。

 僕は思う。

 いつも誰かが、そして何かが、僕を癒してくれる。

 自分探しの旅はまだ始まったばかりだ。

 

John Patrick Norman McHennessy (Red Fox Picture Books) Book John Patrick Norman McHennessy (Red Fox Picture Books)

著者:John Burningham
販売元:Red Fox
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 当初バーニンガムは、『ガンピーさんのふなあそび』『おじいちゃん』などゆったりとして穏やかな作品を描いていました。それが、いつからか割と皮肉なものを描くようになってきました。どの作品も子供の味方であることには変わらないのですが・・。

 きっと、怒っているのかもしれません。子供を取り巻く環境に。

Book いつもちこくのおとこのこ―ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー (あかねせかいの本)

著者:ジョン・バーニンガム
販売元:あかね書房
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 日本語版はこちら。

 いつも遅刻してくる子がいます。それは、ライオンが出たり、ワニがいるからなのですが、先生はそれを聞いてものすごく怒ってしまいます。ところが、最後、学校に巨大なゴリラが出て先生はつかまってしまいます・・。彼はすました顔で先生のお得意の台詞を吐いて教室から出て行ってしまいます。「そんなばかなこと、あるわけないじゃありませんか」ってね。

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2008年2月19日 (火)

The Missing Piece

 

 学校の話に戻る。

 後任の先生が見つかって引継ぎを何日かしたんだ。

 といっても優秀な方なので引継ぎがなくても大丈夫だったに違いない。

 後任の先生は音楽の先生、ダンの奥さんで日本人。

 実は彼女は僕の友人の友人で以前僕に電話をくれたことがある。

 僕の友人は知り合いに日本人がいるから、電話番号を教えて、と言うので教えたら、彼女から掛かってきたって訳。

 とても感じのいい人で、今度ランチでもしようという話になって、また電話をするといって切って、それきりになっていた。それから暫く間があって、ランチをする前にクラスの引継ぎで会ってしまった。

 初めて会ったのに初めてじゃない気がしたので、もしやと思って聞いてみたら、やっぱり、あの時電話で話していた方だった。お互いびっくりしたよ。日本人だってことで舞い上がって、自己紹介もなにもしないで電話で話していたので、学校で会ったときは、名前を聞いてもお互いを認識できなかった。

 彼女はなんて言うか、完璧な人だった。

 やさしく、かわいらしく、積極的に人の役に立とうとするし、英語も完璧で、協調性があって学校や授業には経験もあり慣れていた。この島に来てから約2年、大学でESLを教えているのだという。

 完敗だな、と思った。

 彼女はこの学校にいるべき人なんだと思った。

 何をとっても僕は彼女の足元にも及ばない。

 だから、こうなって、本当に良かったんだと素直に思えた。

 それから僕がこの学校に呼ばれたのは彼女と出会うためだったんだ、と思った。

 なぜなら彼女は今まで出会った誰よりも知的で優しくて明るくて尊敬できてパワフルだった。それからほんの少し悲しみを抱えていた。そんなところも好きになった。

 なんていうか、やっぱり完璧だったんだ。

 まさに、こういう友人が欲しかったんだ。

 目標にもなって、尊敬できて、とても誠実で。

 まさに自分があんなふうになりたいと思う理想の人だった。

 僕達は授業が終わるとランチに行ったり、互いの家を行き来しては個人的なことについて話をした。お互いのこれまでの人生を包み隠さず話し、時には笑い、ある時は涙した。何を話してもお互い共鳴しあった。

 僕が日本へ帰る頃には友情がかなり大きく芽生えていたし絆さえ感じた。

 とにかく僕は出会うべくして彼女に出会い、僕の生徒たちは新しい先生を気持ちよく受け入れてくれた。

 人生はなんてパーフェクトなんだろう。

 そう思えた。

The Missing Piece (Ursula Nordstrom Book) Book The Missing Piece (Ursula Nordstrom Book)

著者:Shel Silverstein
販売元:Harpercollins Childrens Books
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 僕はいつも自分の欠けて足りない missing piece を探して追い求めている。

 いつか彼女のように完璧になれるかも知れないと願って・・・。

 

ぼくを探しに Book ぼくを探しに

著者:シェル・シルヴァスタイン,倉橋 由美子,Shel Silverstein
販売元:講談社
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日本語版はこちら。

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